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コラム「Circuit 07」青池憲司

第29回 ハルハ紀行日録(5)/ウランバートルにて・続
2007.8.28

 

写真1 レーニン像
▲写真1 レーニン像

 7月27日。わたし、つれあい、吉郎少年、洋子さんの4人でまちへでる。朝方は涼しかった大気は昼近くのいまはホットである。モンゴル人は、死にそうだ、と大騒ぎしている。たしかに一昨年の同じ時期に較べたら相当に暑い。ウランバートルでは、7月11日の革命記念日にちなんだナーダム(7月にモンゴル各地で開かれる国民行事。相撲、競馬、弓射の3競技が行なわれる)がすぎると、日差しも風も秋を感じさせるのだが(一昨年は夜はもう寒かった)、ことしはその気配さえない。きょうもすでに35℃を超えているそうだ。湿気がないので、わたしにはそんなに感じられない暑さなのだが。30日からのハルハ行きの準備にうごく。

 ウランバートル・ホテル前の小公園で、ハルハでの車と宿泊の手配などを頼んであるガル青年に会う。彼は、モンゴル教育大学で洋子さんの教え子だった。高校生のころ、母親の日本への研修留学にともなって、千葉県稲毛に住んだこともあり日本語はぺらぺら。大学卒業後のいま、めざしているのはウランバートル市内で牛丼屋を開くこと。吉野家で働いた経験のある友人ら数人との共同起業だが、すでに店舗も決まって9月オープンの予定だという。その準備に忙しいなか、「ヨーコ・バクシャ(洋子先生)のためなら」と通訳を志願してくれた。ガル青年(ほんとうの名前はガル――――――と長いのだが覚えられないので本人の諒承をえてガル青年と呼ぶ)は、名前とおなじように長身(190cmちかい)で痩躯。わたしが勝手に決めているモンゴル人体型(たとえば横綱白鵬のような)とはよほど異なる。

 洋子さんとガル青年は、ハルハ地域への入境許可証を取りにモンゴル軍の国境警備隊本部へ。ハルハ地域は中国との国境が近いので、外国人の立入りには軍の許可証が要る。これがないと途中のチェック・ポイントで止められてしまう。ウランバートルからチョイバルサン(モンゴル東部ドルノド県の県庁所在地。ドルノドは東の意)まで約650キロメートルを飛行機で行き、さらに、ハルハ地域まで約370キロメートルの途中にあるチェック・ポイントで、剣突を食わされ追い返されてしまったら元も子もない。許可証取りをふたりに託して、わたしと吉郎少年はぶらぶらと歩き国立自然史博物館をめざす。つれあいは美容院へ。この人は異国で異国の人に髪を触ってもらいたがる趣味がある。ぶらぶら歩きの途中で三つの像を見る。一つはレーニン像(写真1)。これは、ウランバートル・ホテルの前に建っている。一昨年にこれを見たときは、社会主義を棄てたモンゴルにレーニン像が健在であったことに驚いたが、ことしは再会して、なつかしくも安堵の心持ちである。ちなみに、スターリン像は1992年の民主化後、撤去された。

写真2 スフバートル騎馬像
▲写真2 スフバートル騎馬像

 二つはスフバートルの騎馬像(写真2)。スフバートルは革命家で、1921年に人民政府を樹立し、新政府では陸軍大臣兼全軍司令官に就いたが、1923年に急死(暗殺されたとも)した。彼の像は彼の名を冠したスフバートル広場(ウランバートルの中心である)に建っている。台座には、「わが人民がひとつの方向に、ひとつの意志に団結するならば、われわれが獲得できないようなものは、この世にひとつとしてない。われわれが知りえないものもない。できないことも何ひとつとしてない」という、スフバートルのことばが刻まれている。モンゴル人にとって、スフバートルはチンギス・ハーンにつぐ英雄なのであろうか。

チョイバルサン像
▲写真3 チョイバルサン像

 三つはチョイバルサン像(写真3)で、これはモンゴル国立大学の玄関前に建っている。チョイバルサンは、スフバートルらとともに人民政府に参画し、1939年から52年まで首相兼外務大臣を務めた。ソ連の衛星国としてのモンゴルの立場を築くとともに、自国軍の近代化を進め、ハルハ河戦争(ノモンハン事件)では日本軍に勝利した。それ以前の36年〜38年に大規模な粛清を行なったので「モンゴルのスターリン」の異名をもつ。先述のドルノド県チョイバルサンは彼の名を冠したものである。わたしは、中学校の門内に建っていた二宮金次郎の像をはじめとして、およそ銅像というものに馴染めないのだが、とくに革命家の銅像ほどイヤッタラシイものはない、と考えている。革命家の銅像は反カクメイ的である。





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