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コラム「Circuit 06」青池憲司

第26回 わが隣人たち
2006.10.4
河内音頭の稽古が祭本番までつづく。

 9月24日に、<在留特別許可を求める非正規滞在家族の会>(在特家族会)と<ASIAN PEOPLEユS FRIENDSHIP SOCIETY>(APFS)の主催による「東京入管包囲デモ」が行なわれた。わたしは、その行動に参加した。理由は、コラム第23回にもかいたように、「わたしは非正規滞在をアプリオリに認めるものではない。しかし、そうなってしまった、ならざるをえなかった人たちの、すでに日本の社会に根を下ろしたかれらの現在と将来を考えれば、それは、多文化な共生社会を目指すわたしたちの問題であり、その点で、9/24行動を支持する」からである。

 デモンストレーションには、在特家族会をつくる5か国(イラン・パキスタン・ビルマ・フィリピン・中国)の家族を中心に約100人が、品川の芝浦中央公園に集り、東京入国管理局まで行進した。行動参加者は、ベビーカーの幼児から小学生中学生の男子女子、これは家族会のこどもたち、そして青年中年壮年は諸国人の混成。その集団の環のなかにあって、わたしの心にうかんだのは、かれらはわたしの隣人である、というつよい思いであった。在特家族会のかれらは、それぞれの母国から日本弧状列島へやってきて、仕事を得、パートナーと出会い、結婚し、子どもが生れ、生活を築いてきた、いまも築きつつある、人たちである。かれらは、わたしとおなじように弧状列島の社会を構成する一人ひとりであり、(不法と呼ばれようと非正規といおうと)かれらが在日するフィリピン人やビルマ人なら、わたしは在日する日本人である。つまりは隣人同士である。

 デモ行進は、入管近くの草野球場でおわりとなる。少年野球をしている野球少年たちが、なにごとならんとグローブとバットを置いてわれらを迎えるかと幻想したが、もちろん、そうはならず、ゲームは滞りなく進んでいる。その向うに建つなんの特徴もないノッペラした高層ビルが東京入国管理局である。デモは、草野球場で解散し(形式的な解散である)、それからがもうひとつの本番になる。わたしたちは、三々五々、ぶらぶらと入管に近づいていき、玄関前付近にたむろする。集会ではない、屯(たむろ)である。意気込みは東京入管包囲であったが、いかんせん、100人隊ではちと、いや、だいぶ手が回りかねた。そこで、入管内に収容されている人たちに声が届きやすい場所から、在特家族会の妻や子や同胞たちが、中にいる夫や父や同胞たちに向かって呼びかけをした。

 お父さんに、ぜったいにわたしの声を聞いてもらうんだ、とマイクを握った少女は、思いはあふれるがことばにならず、ついに泣きだしてしまう。彼女は大声で泣きに泣いた。ことばにならず泣きじゃくるのもひとつのメッセージである。ヴィデオ・キャメラを持って参加したわたしは、その少女をかこむ群れから入管ビル上層へとキャメラを振り上げていった。ある収容体験者によると、収容階の廊下に路上のスピーカー音が聞こえることがあったという。いま、この声を聞きつけたかれらが、妻や子や同胞に手を振る姿を見られるかもしれない。それを期待した。窓辺にはしかし、収容者の姿はなく西日が照りつけるだけだった。いや、こちらからかれらの顔は見えないが声は届いているかもしれない。

 ――キャメラの視線をこどもたちに戻そう。わたしは、ここにいるアジアのこどもたちは、在日するアジア人として、将来の弧状列島社会を担う一人ひとりだと思っている。それはさきほどの野球少年たちもおなじである。かれらがどのように恊働してコミュニティをつくっていくか。マーティン・ルーサー・キングのことばをかりれば、それがわたしの“I have a dream”でもある。ところで、入管ビルのガラス壁面と同様、ノッペリ無表情な面立ちの新宰相閣下が目指す国家像は「美しい国、日本」である。この「美しい国」の住民のなかに、わたしの隣人たちはふくまれているだろうか。

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