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コラム「Circuit 06」青池憲司

第24回 ちょっとそこまで
2006.9.13
築100年超の茶屋
▲大津にある築100年超の茶屋 Photo:青池憲司

 いくつかの所用をかかえて箱根を越え、大井川、浜名湖を渡り、関ヶ原を抜けて京、大阪、さらには神戸鷹取まで行って返ってくるという小旅をした。実際には鉄路は箱根を越えていないのでそうはいえないのだがそこは気分で。今回の西遊には新幹線に乗るのがたまらなく嫌で、すべて東海道線各駅停車の普通電車で通した。まずは東京→熱海、のりかえて熱海→浜松、のりかえて浜松→大垣、のりかえて大垣→米原、乗り換えて米原→京都。約10時間の旅程であったが飽くことはなかった。電車が進む先々で乗り込んでくる利用客老若男女の顔、ことば、聞くともなく聞こえてくる話のなかみ、などなど新幹線ではぜったいに見聞できないローカルがそこにはあった。遠くへ行くのではなく、どこまで行っても、ちょっとそこまで、という気分で、時間は滞ることなくたのしく過ぎた。

 所用はさておき、次の日の京都では、昼飯に京都駅前ポルタ地下街にあるカフェグリル東洋亭でオムライスランチを食べた。1897年(明治30)創業のキャピタル東洋亭本店は上賀茂の植物園前にあるが、わたしはもっぱら(というほど行っていないが)ランチタイムに駅前の店を利用する。定番メニューはハンバーグステーキだが、きょうはオムライスを摂る。ビーフシチューソースとケチャッツプで炒めたライスを半熟卵で包み込み、それにデミグラスソースをかけて食べる。わたしのようなオム好きにはこたえられない味だ。前菜に出てくるトマトサラダもよい。季節ごとにもっともおいしい地方のトマトを選んでいるそうだが、きょうは北海道平取のもの、これがまるごと一個、ドレッシングがかかって出てくる。その味、一の皿二の皿ともに堪能した。

雪空の下の港都
▲囲炉裏を切った茶屋の室内 Photo:青池憲司

 この土地特有の多湿のなかですませた所用のことはさておき、その日の晩飯は友人夫婦が婦唱夫随でやっている茶店でご馳走になった。茶店は滋賀県大津市の山中、福井県小浜市と京都市左京区出町柳を結ぶ鯖街道花折峠(国道367号線)の麓にある。鯖街道は、若狭地方で獲れた魚貝類を京都に運ぶために整備された街道の歴史的な名称で。魚介類のなかでもとくに鯖が多かったため、この名がある。出町柳からバスで大原へ行き、そこで朽木小学校行きにのりかえ、平で降りると茶店がある。築100年を越す古民家をそのままつかい、アンティークな生活道具を商いオーガニックな酒飯を供している。夫婦が仲間といっしょに栽培している米でつくった酒に喉を鳴らし、岩魚の焼き物やハヤのから揚げ、地鶏のやきとり、季節の菜、そして鯖寿司など、女主人の手になる味に舌鼓をうった。

 この友人夫婦とは15年まえ、タイ旅行のときにチェンライというまちで知り合い、その夜、いっしょにタイの米ウイスキー「メコン」を呑んで意気投合して以来、ずっと家族ぐるみの付き合いがつづいている。そのとき小学生だった娘は結婚して子どもがいる。阪神大震災のときには鷹取救援基地へきてくれた。次の日の朝その鷹取へ向かった。友人宅のある堅田からJR湖西線で京都へでて所用をすませ、四条河原町から阪急電車で三宮、のりかえてJR鷹取へと辿った。目的は林さんの「サンパツやハヤシ」での散髪である。林さんが髪に触り、おくさんのすみちゃんが顔をあたり、3人で世間話をしながら調髪を終えたところへ、かんちゃん(神田裕神父)がやってくる。ハヤシは顔見知りのだれかに必ずといっていいほど出くわす、由緒ただしい髪床である。

建設途上のたかとり教会
▲建設途上のたかとり教会 Photo:青池憲司

 今回の訪鷹は散髪だけが目的で、かんちゃんに会えたのは望外のできごとだったが、人はこんなふうに会うのもいいね。おたがいの距離が新鮮になる。四方山話が近況からいま建設中の教会になり、中座してそれを見に行く。坂茂設計のまだ躯体の骨組みしか見えていないが、いかなるものにあいなるかたのしみである。鯖街道花折峠の古民家を見てきたあとでは宇宙への発進基地のようにも見える。「神戸の新名所になるかもしれないね」とかんちゃんに感想をつたえて、離鷹。この間約1時間。JR神戸線で大阪へでて、梅田で女友だちと一献。電車に乗って、車中を読書室にして、着いたところでめしを食い、所用をすませ、友人たちと一杯やり、散髪をしてかえってきた。帰京は新幹線のぞみ。往きはゆっくり返りは早いがよろしいようだ。気分はちょっとそこまで。

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