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コラム-わが忘れなば

第6回 KOBE 上海 天津 唐山の友へ
2005.4.22

 北京、上海、深セン、瀋陽、天津……、中国各地で反日デモが打ちつづいている。友よ。わたしの胸裡に、いま、昨年の夏、「日中交流・復興クルーズ2004」の旅で出会ったあなたがたの顔が鮮やかに浮かんでいる。クルーズのメンバーとして参加し通訳を務めた、上海師範大学の学生ふたり、天津大学建築学科の大学院生、天津市第二南開中学の高校生たち、天津旅游専門学校の学生たち、唐山市第八中学の高校生たち。そして、かれらと友情のひとときを過ごした被災地KOBEの若者たち。

 交流のメインテーマは、大地震の災厄とその復興の記憶を伝え合うことであったが、旅の日々が重なり見聞を積み、中国の現実にもわずかではあるが触れていくうちに、KOBEの若者たち個々人のなかで思考がふくらみ、日本と中国の歴史に目が向けられていった。これには、同行のおとなが触媒的な役割を果たしたこともあるが、かれらが旅の間行動をともにした中国人青年Sさん(雲南省出身)、Kさん(上海市出身)とのコミュニケーションと、各地で出会った同年代者との交流が大きく作用している。

 あるときこんなことがあった。唐山市での出来事である。街中の、商店と小さな市場がある一角で、わたしたちは休憩していた。磁器(この地方の名産品である)を商う店があって、みんなでjust lookingをした。いや、よき品揃えであったから買った人がいたかもしれない。商品のひとつとして高さ1mくらいの立像があった。クルーズ一員の中学生男子がその立像に、あれはプロレスの技でなんというのだろうか、わたしは知らないのだが、要するに首を絞めるプロレス技を掛けたのだ。服務員(店員)がすっ飛んできたのはいうまでもない。それよりまえに、同行日本人おとなが中学生の行為を制止してたしなめた。中学生は、服務員に、立像への悪戯を謝罪してその場は済んだが、かれは、おとなの、「これ(立像)、だれだか知っているのか?」の問いには答えられなかった。立像は毛沢東であった。

 次の日、移動中のバスのなかで上記の件で話し合いがもたれた。問題提起をしたのはおとなであった。中国の歴史と社会のありようをきちんと学習する必要があること。問題提起者は、まず、毛沢東がいかなる人物であるかを説明したのち、アジア太平洋戦争中に日本人が中国人になにをしたか、その歴史の事実を話した。大学生女子は、自分で調べた、日本人兵士の中国民衆への残虐行為を話した。それらの話のなかには、戦争の加害者としての日本人の姿があった。明治・大正・昭和20年までの、日本人によるアジアの人たちへ加害行為は、若者たちがあまり教えられていない事柄である。日本の歴史教育は近現代史に重きをおかない。避けて通ろうとしている。だから、いちばん身近な自分の父母や祖父母の時代とすら、精神的には繋がっていない。批判的に継承されていない。

 バスは走る教室となった。上海師範大学生のSさんが、「歴史をつくりなおすことはできないし、日中の出来事を忘れるわけにはいかないが、わたしたちは協働してわたしたちの未来をつくっていこう」と発言した。それを受けるかのように、高校生男子が、「いっしょに未来をつくろうという提案はうれしいが、ぼくは、日本と中国の戦争中の歴史をほとんど知らない。まず、日本と中国の近現代史を勉強することから始めたい」と話した。日本の近現代史はアジア侵略の歴史であった。中国のそれは帝国主義列強と日本軍国主義への抵抗の歴史であった。

 ことしは、アジア太平洋戦争が日本の敗戦で終結して60年。アジア諸国とくに中国、韓国からの日本批判はつづくだろう。それはひとえに、アジア諸国と日本の関係史、日本の近現代史認識の見なおしの要請であろう。反日デモの要因として、日本政府の歴史認識を指摘する中国政府に対して、日本と中国には日中戦争時代よりも、もっと長い長い友好の歴史がある、などと、能天気なコメントをする外務大臣をもつ不幸。歴史に対するこの鈍感さのツケはヤンガージェネレーションにまわっていく。

 KOBE、上海、天津、唐山の友よ。あなたがたが未来をつくる作業は始まったばかりだが、昨夏の出会いと交流を礎として、進んでいってほしい。国家や国境を越えて、おたがいの住むまちから。マスではなく、おたがいの顔と声で考え方と真情を確認しあって。そのとき、わたしも、あなたがたのパートナーとしてそこにいたい。


<関係リンク>
  • 2005.3.16-コラム「わが忘れなば」第6回:若者たちの、天津・唐山
  • 2004.9.1-コラム「眼の記憶」第21回:我的天津唐山紀行断片
  • 日中交流・復興クルーズ2004

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