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コラム 眼の記憶


2004年4月1日

久保から日比谷公園へ出かけました。運動会です。3月20日、「米英主導によるイラク侵略戦争と自衛隊派兵」反対行動の日世界一斉の反戦行動日です。日本とアジア各国・地域から時差順にはじまって、世界40数か国で反戦の意志表示をします。こうした行動を明治の先達たちは運動会とよびました。大久保に屯する、あらばき恊働印刷のおばちゃん、風俗ライター伊藤裕作さん、木の建築士江原幸壱さん、そしてわたしなどは、このところずっとイラク侵略戦争反対の運動会に嵌っています。なぜにわたしは運動会へ行くのか。アジア太平洋戦争末期に神戸大空襲を体験した、阪神大震災被災地KOBEの80歳にならんとする老女のひとこと。「やっぱり、いっちゃん大事なんはコミュニティやねえ」。わたしは老女の思想に共感するのであり、小泉政権のイラク侵略戦争加担によって、いったん事ある際に、真っ先に被害を被るのは個人・家族・コミュニティであると考えるからです。「いっちゃん大事なコミュニティ」を破壊する国家の活動に反対します。

やあ、それにしても、この日は寒かった。春分前日だというのに、都内は霙っぽい雨で気温2、7度。雨だから、しかも、季節はずれの真冬日だから、どれだけの人が集るかと懸念しつつ出かけたのだが、公園へ入っていくと噴水前から野外音楽堂へかけて、人・傘・人・傘、人傘人傘。ごめん、雨だから寒いから集りが悪いだろうなんて、とんでもないわたしの鈍頭。この日、ここではふたつの集会が開かれていて、ひとつは野音で、「ワールド・ピース・ナウ」(51の市民団体でつくる)の主催。ひとつは噴水の周囲で、「交通・運輸関連労組20団体」の主催。ほかにも、さまざまなグループが独自の集会を開いている。野音へ向かって歩いていくと、案内板を覗きこんでいる男がいて、伊藤裕作さん。「10万人のひとりになるためにきた」という。いいね。

 ならんで集会がはじまっている野音に入る。傘・幟旗・人波の向こうのステージで、実行委員の星野ゆかさんが、「イラク攻撃開始以降、分かっているだけで1万人以上の人が死んだ。自衛隊派遣によってわたしたちも危険にさらされている」と話している。喜納昌吉さんが登場して、寒いから身体を動かそうと「ハイサイおじさん」をやる。沖縄からの連帯のメッセージと歌をつづけて、「アリラン」「花」。日本国際ボランティアセンター(JVC)の熊岡路矢代表は、「米国の国益のための戦争だとの批判もあるが、現実はその国益さえ壊している。復興支援をビジネス化する一部の集団の私益に奉仕した戦争だ」と指摘。米軍人家族の会(MFSO)のメンバーで、横須賀市で英語講師を務めるロバート・スミスさんは、「米国の犯した間違いのために、自衛隊は派遣されている。イラクの人々が本当に自衛隊を必要としているのか、改めて考えてほしい」と訴えた。風船が冷雨の空に二つ三つと漂っている。芝公園で開かれている日共系の集会で、開戦時刻の11時33分に飛ばした風船の迷児だろうか。

 寒い、動こう、と裕作さんと声掛け合って、通用口から野音の外へ。あふれる人波は、公園中を埋めて約3万人、と主催者の発表。北海道から沖縄まで140か所以上で「占領終結」や「自衛隊撤退」を求める集会とデモが行なわれているという。いいぞ。主催者はパレードというが、わたしはデモという。デモの出発を待つ間に、あの「桃色ゲリラ」のお姐さんたちと遭遇した。「寒くない?」と裕作さん。やさしいね。「寒い」とブラジャーとミニスカ装束のゲリラ。震えているが、そのファッションとパフォーマンスをイラク反戦の意志表示として、この態度原則を貫徹している姿勢にブラヴォ。さりげなく声をかけた裕作さんの心遣いにも拍手。瞬間に交錯したふたりのきもちがあったかい。

モ隊が出発したのは午後3時ごろ。隊列のうしろからくるお兄さんが叩くコンガの音に合わせながらステップを踏むように行く。雨が上がりかけている。周りを見まわすと、どの参加者も、個人あるいはグループごとに声をあげていて、全体の統一なんてまるでない。それぞれが自分の歩幅で歩いている。ついつい、こんなんでいいのか、などと思ってしまう。統一はないがそこはかとなき一体感はある。自分の歩幅で歩くのはいいことだ。わたしもそのように歩いている。

 歩きながら、おなじコースを行った1月21日デモの辺見庸さんの感想がうかんでくる。「国家の途方もない非道の量と質に較べて、怒り抵抗する者たちの量と質が話にならないほどつりあわない。戦後最大級の反動の質量に対する抵抗の質量が無残なほど相応しない」という文章が。(『世界』3月号「抵抗はなぜ壮大なる反動につりあわないのか――閾下のファシズムを撃て」)。思わず、異議なし、とつぶやく。が、すぐに、それはそのとおりなのだけど、いまできることは、3万人がおなじ地面を、それぞれのステップを踏みながら歩きつづけることだろうな、と思う。きょうのこの隊列に辺見さんはいるだろうか。わたしは、わたしのリズムと内圧をたかめて、大久保の仲間とコンボを組んで活動する。それを持続する。

 そんなことをとつおいつしていると、デモは西銀座交差点にさしかかった。ここで、あらばきのおばちゃんが合流する。池袋での結婚披露宴を中座して駆けつけたのだ。いつものモンペに紅緒の下駄。粋だね。雨はあがったが寒い。流れ解散地点の常盤橋まではいかず、鍛冶橋付近で隊列を離れる。さて、どうしようか。熱燗だ!


(この項つづく)


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