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青池憲司コラム眼の記憶10

第3回 KOBEで/1.10(後篇)
2010.1.24
写真1 シンポジウム会場

 阪神大震災以後に限っても、日本でも世界でも、大きな災害が頻発している。今月12日(日本時間13日)にはハイチで大地震があった。ハイチのプレバル大統領は、「死傷者の総数は分からない、これまでに7万人の遺体が収容され、がれきの下にまだ多数が残っている」と語っている(共同通信1月21日付記事)。日に日にあらわになるその惨状(被災者は全体で300万人と想定される)は連日報道されているが、この大災害に国際的な救援・支援活動(43か国、1700人のチーム)が展開されているのも周知のとおりである。これまでに120人を超える生存者が助け出された。

 これを書いている22日の報道によると、地震発生から10日、生存者が残されている確率はきわめて低くなったとして、一部のチームは帰国の途につきはじめている、という。国連のパン・ギムン事務総長は、「国連の活動の重点を人命救助などの緊急支援から食料などの支援や経済の復興に移す時期に来た」と述べ、被災地での雇用の創出など、中長期的な復興に向けて国際社会からのさらなる支援が必要だと呼びかけている。被災地への緊急支援から復興支援へ、過去のさまざまな災害支援のノウハウがさらに効果的に実践されることになる(であろう)。

 わたしはこのごろ次のようなことを考えている。――阪神大震災の復興のプロセスで培われた、住民・専門家・ボランティア・行政などによる、「人と地域(まち)」を再生する活動が、その後の災害にどのように役立てられていったか。KOBEの知恵と技術は、台湾921地震(1999年)や新潟県中越地震(2004年)、スマトラ島沖地震(2004年)、四川大地震(2008年)などの被災地へどのように伝えられ、機能したのか。復興活動の知恵や技術の継承と発展は、次ぎにくる災害への備えと被災時の対応に欠かせないノウハウであるとともに、非常時を越えて、平時のよりすぐれた社会(コミュニティ)をつくるのための大きな推進力となる。

写真2 パネリストのみなさん

 1月10日に神戸市立博物館で行われた、シンポジウム「神戸・台湾・中越・四川―それぞれの復興と多文化共生―」(写真1)は、わたしのそんな考えと重なるテーマであり、阪神大震災から丸15年がすぎ、16年目に入る初頭にふさわしい催しであった。報告者とパネリストは、神戸から神田裕さん(たかとりコミュニティセンター理事長)、台湾から廖嘉展さん(新故郷文教基金会菫事長)と黄インハオさん、新潟中越から稲垣文彦さん(中越復興市民会議事務局長)と平澤さん(川口町本町通り復興活性委員会)、中国四川から高圭滋さん(四川512民間救助服務中心理事長)と郭虹さん(四川省社会科学院社会学研究所)。それぞれの人がそれぞれの被災地の「現在と課題」を語った。そのなかから、印象に残ったコメントを短く抜き書きする。

四川「四川512大地震の復興は政府主導で進んでいる。公共施設(病院、道路、橋など)は再建され、農村部の住宅再建も終ったと発表されているが、一歩中に入ればとても復興といえる状態ではない。住宅再建は個人負担、政府補助、銀行融資がそれぞれ三分の一で、みんな負債を抱えている。この地震から始まったといってよい民間支援やボランティア活動も党委員指導・政府責任である」

中越「中越地震後の課題は、町村の過疎高齢化、地域経済など被災地だけでは解決できない問題である。復興の課題をどう平時の取り組みに繋いでいくか」

台湾「台湾921地震は10年が過ぎていま復興後期。これまでのつらい作業をいかに実りあるものにするか? 地元で魅力のある産品をつくり、地域経済の活性化を図っている」

神戸「阪神大震災で見えてきた問題はじつは日常的な問題であり、15年後のいまもそのことに取り組んでいる。その意味では復興に終りはない」
 
 地震の規模や被害はちがっても、四被災地に共通する問題は、災害は特別な出来事だが、そこで発生している問題は非常時特有のものではなく、震災があろうがなかろうが、その社会に遍在する問題が噴出している、ということにほかならない。そして、四被災地に共通する復興のかたちは、災害をバネに社会を変えていこうとする、住民の意欲と計画と実践である。日本列島のみならず、いつ、どこで、どんな災害が起こっても異としない地球環境である。被災した人びとは、さまざまな困難を乗り越えて生活と社会を再生・創造してきた(しつつある)。それらの復興の知恵と技術を共有し、リレーしていくことが、なにより大切である、と再確認した年頭である。

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