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青池憲司コラム眼の記憶09

第15回 KOBE〜中越、そして(5)
2009.7.27

 中越探訪の旅、次は「FMながおか」をたずね、放送局長の脇屋雄介さんにお会いした。聞きたかったのは、「『FMながおか』は中越地震をどう伝えたか」である。同局は、市民や若手実業家らを中心とした積年の開設運動を経て、1998年に放送をはじめたコミュニティ・ラジオである。開局の目的の一つに、「災害につよいまちづくりと地域コミュニティのためのメディア」がある。周波数は80.7MHz、放送エリアは長岡市中心部、大積地域、栃尾地域、山古志地域、小国地域、和島地域 寺泊地域、見附市、小千谷市の一部という規模である。「コミュニティFMはたんに放送エリアのせまいFMラジオと思われがちだが、地域に密着した小さなメディアだからこそできることがある。中越地震ではまさにそのことが試された」と脇屋さんはいう。

 <17時56分ごろ、中越地方を中心に大きな地震がありました。各地の震度は長岡が震度6強です>。第一声こそ緊急放送の型通りだったが、『FMながおか』は、そのごは独自の放送スタイルにかわっていく。駆けつけてきたスタッフが登局途中で目撃したまちのようすを、次々にアナウンスした。<長岡市内はほとんどの町内で停電しています。交差点では信号が止まっています>。その間にも大きな余震が数回あり、スタジオは揺れ、全員ヘルメット着用で放送をつづけた。<いま、このスタジオでも非常に大きな揺れを感じています。余震です。落ち着いて行動してください>。リスナーからも電話でひっきりなしに情報が寄せられ、即それを電波に乗せた。「被災地のど真ん中の放送局」は、この夜から24時間放送体制に入った。

 小さなメディアだからこそできることがある。――「被災地に必要な情報は、直後、3時間後、1日後、3日後、1週間後と時々刻々変っていく」と脇屋さんはいう。そのニーズに応えて、聴取者に寄り添うような身近な情報を出していくこと。たとえば安否情報、「◯丁目のおじいさんが行方不明です。チェック模様の上着を着ています」とアナウンスしたら、5分後に「路上でそれらしい人を見た」というリスナーからの電話情報があり、その男性は無事保護された。「◯◯さん、きょうは出社しなくても大丈夫、家のことに専念してください」。また、安否の確認を求めてきた人の携帯電話番号を放送したこともあるという。これらの事例は、電波の「公共性」ではなく、「わたしたちの共同性」にもとづく、極私的ともいえるコミュニティ・ラジオ活動である。脇屋さんはいう「電話もうまくつながらなくなった地域では、顔の見える、小さな情報を被災者一人ひとりが求めている。住民と一体となった即時性と双方向性を大切にしたい」

 中越地震の被災直後から復興へ向かう過程で、『FMながおか』が果した大きな役割の一つに、被災外国人を対象にした多言語放送(ポルトガル語・中国語・英語・やさしい日本語)がある。当時、長岡市内など主な放送エリアには、日系ブラジル人や中国人など52か国・地域の外国人約2100人が暮していた(中越地方全体では約5000人)。その人たちのなかには地震を初めて体験した人もたくさんいた。「地震? 世界の終りかと思った」「外国人は避難所へ行けないと思っていた」「日本語がほとんどわからなくて、何をしたらよいかわからなかった」などの感想が寄せられた。刻々と変わる被災情報や復興生活情報を多言語でどう伝えるか。前回に紹介した『長岡市国際交流センター』の羽賀友信さんらとの恊働がはじまる。

(つづく)

【この稿を書いている数日間、中国地方と九州北部で豪雨による大災害が起きていて、26日現在も自然の猛威は衰えていない。いまは、亡くなられた方の冥福を祈り、被災された人たちの復興への救援活動を考えるときだが、原因究明も速やかに着手されなければならない。メディアの報道を見聞するかぎりでも、これはいわゆる“天災”などではなく“人災”である要素がつよい。わたしにとって、水害で記憶に新しいのは、昨年7月28日に神戸市灘区を流れる都賀川で起きた水難事故である。都賀川は全長2キロにも満たない小さな川だが、28日、活発化した前線の影響で急激に増水、遊びにきていた学童保育所の子どもと引率のおとななど10名以上が流され、子ども3人をふくむ計5人が亡くなった。阪神大震災では、被災した人たちが川沿いの都賀川公園にテントを張ってしばらく避難生活をおくった。そのとき、都賀川の水は食器洗いや洗濯、風呂水などに利用され、地域の人たちは都賀川を「自分たちの川」と呼んだ。亡くなった子どもたちをふくめ、かつてもいまも多くの子どもたちが親しんでいる川である。公園には「阪神淡路大震災メモリアルモニュメント/復興の誓い」が建っている。失われた命といまをいきる子どもたちの生を想う、7月である。】

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