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眼の記憶08

第2回 厳寒の被災地KOBEから(2)
2008.1.31
写真 立ち呑み酒屋森下のレトロな雰囲気

 町場の酒屋(酒小売店)が店内の一角にカウンターをつくり、そこでコップ酒を呑ませる店を「立ち呑み酒屋」といったり、ただ「立ち呑み」といったりする。むかしは東京にも数多くあったが、いまは廃れたようだ。関西には、まだこのよき酒文化がのこっていて、神戸でも繁盛している。わたしは鷹取へ行くたびにそんな店をうれしく利用している。むかしは、わたしが酒を呑みはじめた40数年前は、なんとなく貧乏ったらしいイメージがあった。背中をまるめた男たちが、黙然と入ってきて、酒なみなみと注がれたコップに、とがらした口先を近づけてまず慎重に啜り、つぎに受け皿に溢れこぼれた酒をコップに注ぎこみ、それをチビチビと呑みおえ、未練気にコップを見ながら、ポケットから取り出した小銭をカウンターの上に放りだすように置いてでていく、その間、ことばはほとんど発しない。そんな光景をよく見かけたが、いまではリーズナブルで気が置けない、男たちの円居の場になっている。酒の肴もかつては、塩豆やするめやピーナッツのような乾きものばかりだったが、きょうびは、かんたんではあるが、手をくわえ火を入れたちょっとした料理も出てくる。

 立ち呑み酒屋は繁華な商店街にあるのではなく、町内のそこここに地域の溜り場のように点在する。野田北部・鷹取地区にも数軒あって、その1軒、森下酒店のことは以前にもときどき書いた。今回、被災地KOBEには16日の夜に着いた。野田北ゲストハウスの部屋の鍵をもらわなければならないので、せっちゃん(河合節二・野田北部まちづくり協議会事務局長)へ電話をすると、森下(写真)で待ってます、という。うーん、着いていきなり森下か、いささかヤバイ、と思いながら顔をだす。すると、いました案の定、おなじみの面々。Oさん、OTさん、競馬のHさん、通称デーやん、通称ハゲサワさん、ほかにもお名前は存じ上げないけど顔見知りの人たち、過激な出迎えであった。店内を見まわせば、地域の自営商や勤めがえりの住民さん、逆にこの周辺に通勤している人たちなどが、いくつかの群になって酒と話で盛り上がっている。年齢幅はかなりひろい。20代後半から70代。さいきん、女性の姿も見るようになったという。ひとりぽつねんと呑んでるやつはいない。いいなあ、これだよなあ、この雰囲気。みんながだれかとつながっている。それが、日常の感情を増幅させる。

 ふだん、わたしは、自分の地域で呑むことはほとんどない。でも、ときどきは、おなじ集合住宅の人たちと呑み食いをする。敷地内のオープン・スペースで焼肉会や、秋刀魚を炭火でボーボー焼いての小パーティをする。あるいは、隣人同士招き合って晩飯を食う。酒食をともにすることで、べつに詮索しなくても、おたがいのことがすこしはわかってくる(すこしがいいのだ)。これは貴重な時間である。わたしが阪神大震災から学んだことの一つは、日ごろの近所付き合いが非常のときの自分を救う、であるから。災害時、おたがい無事であれば、駆けつけるだろうし駆けつけてくれるだろう、そんな関係は日ごろの付き合いの積み重ねでしか成就しない。その付き合いのさまざまなかたちの基本は呑み食いにある、とこれはわたしの思い込み。いや、非常時のためだけではない、平常時のコミュニティづくりの基本もおなじことではないか、野田北部・鷹取の阪神大震災からの復興のプロセスを見ているとそんなふうに断じたくなる。そんなことはあたりまえであって、いまさらのごとく書きつらねることでもないだろうと思われるかもしれない。わたしもそう思わないわけではない。でも、そんなシンプルで大事なことを、毎年、1.17の被災地は教えてくれる。ことしもまた。

 このコラムの前回にも書いたが、震災の数年後から被災地の多くの地域で月2〜3回「ふれあい喫茶」が開かれている。野田北部では毎回70人前後の方が参加しているそうだ。高齢の女性が多い。ふれあい喫茶は震災後の地域の復興活動からうまれてきたものだ(そして、いまではインターネットで検索すれば全国津々浦々にそれを見付けることができる)が、もともと関西のとくに下町には、近所の喫茶店にでかけ、コーヒーか紅茶、パン、ゆで卵のモーニングセットで朝食を摂る習慣がある。家庭の食卓の延長としての喫茶店が近隣の人たちのおしゃべりサロン、溜り場となる。ふれあい喫茶はそのコミュニティ版である。「立ち呑み酒屋」と「ふれあい喫茶」が地域力に直結するとは、いくらなんでも考えないし、このふたつの溜り場は、同列には語れないが、地域力を醸成する養分にはなるのではなかろうか。男も女も老いも若きも、人が群れる場をもっともっとつくりだしたい。厳寒の被災地KOBEでそんな初心めいたことを考えていた。

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