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コラム「Circuit 06」青池憲司

第7回 レツを組む話
2007.3.11
▲おおくぼ芝居『レツ』

 2002年の夏に、「おおくぼ芝居『レツ』」(共作・都風六平=つむじ ろっぺい=都の空に旋風を捲き起こす6人の意)という戯曲を書き、その年の10月に上演した。「歌舞伎町のへり、アジアのへそ」(©伊藤裕作)と呼ばれる大久保・百人町地域を舞台に、ここで生活するアジアの人たちと日本人が織りなす物語である。外国人の流入と定住、かれらと日本人地域住民の葛藤、ホームレス問題、行政機関の対応、人びとの対立とその克服など、大久保・百人町地域に突出的に現れている問題をモチーフにしているが、それは、この地域だけに固有の問題ではなく、日本列島各地で生起する(すでに生起している)普遍的なテーマにほかならない。劇中で、アジア人と地域の日本人はレツを組んで、非寛容な日本社会とそこに巣食う悪人輩に立ち向う。タイトルの『レツ』には、日本人と外国人、抑圧排除されている人たちとの連帯など、共生への思いがこめられている。ちなみに、レツはつれ(連れ)の逆さ読みで。列ではない。新明解国語辞典で「つれ」を引くと「仲間として、一緒に行動すること(人)」とある。わたしとしては、共同・協同・恊働および連帯などということばが、なにかちょっと肩肘張るなあ、と感じるときに、レツを組む、などという。
▲会場となった野外円形劇場様式の空間

 上演は、ご当地大久保のマンション敷地内にある野外円形劇場様式の空間で行なった。といっても、じっさいに円形劇場があるのではなく、石造りの階段状の坐席(350人くらいは坐ることができる)が半円形にあって、その擂鉢状の底の平場を演技場とした。日ごろはマンションの住民さんが屋外での集りにつかっているプライベートな場所なのだが、管理組合の好意で借りることができた。タイトルにあるように「おおくぼ」(新宿区)を舞台にした芝居なので上演場所は当然大久保に固執した。しかも、屋外(ストリートに隣接した)でやりたい。だが、大久保および周辺の公園空地のすべてに新宿区からの使用許可がでず、怒りと焦燥の時期だったので地元住民さんの協力がえられたのはことのほかうれしかった。
 
 5年まえのレツを組む話を書き連ねたのはほかでもない、先日、自称大久保の探偵、便利屋稼業のヤクモと会って、いつものように新大久保駅横のロッテリア2号店でbad tasteのコーヒーを飲みながら、わたしがさいきん関心をもっているふたりの若者、MCクリームクンベルとマリアムの話をしたら、ヤクモが、「それは、なんか、『レツ』弐の替りのネタになるんじゃないか」といいだしたからだ。以下、そのときヤクモに話していたふたりのことを書く。
 
 MCクリームクンベルは、在日ヴェトナム人のラッパーで神戸に住んでいる。以前、このコラムで紹介したMCナムの先輩、師匠格の青年である。少年時代に難民として日本へ。難民1世を名乗る。ヴェトナム人の誇りと日本社会で生きてきた真実をHip-hopなエンターテインメントにしてうたう。在日ヴェトナム人として日本社会の内閉性を撃つことばは鋭く熱い。クラブやライブハウスのほかに、大学やコミュニティの集り、さらには、薬物防止や難民救援の活動にも積極的に参加し、うたい、発言している。「沈黙は魂の死を意味する」。コンサートの会場でかれは問いかける、「日本政府は難民を強制送還しようとしているけど、この法律をみんなはどう思う?」。同世代の若者たちへのメッセージは直截的である。なぜ、ラップをやるの? 「おれがラップやるんは、まず自分の生活のため。次に在日ヴェトナム人同胞のため。さらに、これからやってくるおれのような外国人のため。そして、もちろん日本人のため。つまりは、おれも混じってるこの社会がもっとよくなってほしいため。でも、やっぱり自分のため。おれはラップで家建てる」。

 マリアムは、在日イラン人でこの4月から短大1年生になる。在留特別許可で滞在し高崎市に住む。このところ何回か書いてきたアミネ・カリルさん一家の長女である。父親のアミネ・カリルさんは1990年に、マリアムは翌年母親と、いずれも短期ビザで来日。そのご非正規滞在(不法滞在)となる。一家は、99年末に在留特別許可を求めて東京入国管理局へ自主的に出頭。2000年6月、国外退去処分を受ける。同年8月提訴。03年の一審・東京地裁判決で主張が認められたが二審で逆転敗訴。05年10月に最高裁で上告棄却となった。そのご、一家はねばりづよく入管側と話し合いをつづけた。学校や地域の人たち、NPOグループの署名や嘆願書など支援活動も活発にあった。ことし2月16日になって、高崎市内の短大に合格しているマリアムだけは在留特別許可が認められた。両親と妹(小4)は彼女の入学式を見届けてから帰国する。「4人いっしょに堂々と日本に住みたい」というアミネさん家族の7年に及ぶ在留特別許可を求める運動は、ひとつの終りをつげたが、すべてが終ったわけではない。マリアムは、卒業後は保育士になって日本社会で生きたいという。家族と離れて大学生活を送ることになったマリアムだが、一家が長年住んだ地域(町内)には彼女をひとりにしないで助けていこうとする人たちがいる。定住する外国人を受け入れようと努力するコミュニティがある。

 ふたりの例はりっぱにレツを組む話ではないか、とヤクモはいう。『レツ』弐の替りのネタになる、はかれ一流のわたしへの挑発だが、それはそれとして、ヤクモの意見にも一理はある。いま、この列島には、国籍も家庭状況も生活基盤も仕事もそれぞれに異なるクリームクンベルやマリアムのような若者たちが大勢いる。かれらに共通するのは、それぞれの民族的・文化的アイデンティティと葛藤しながら、日本に定住し、この社会で、自分の将来を築いていこうとしていることである。そうした若者たちと日本人が、地域のなかで付き合っていくことは、たしかに新しいレツの組み方である。そこでは、かれらとわたしら、というバリヤーを取り払ってみんなが「わたしたち」になる。

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