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コラム「Circuit 07」青池憲司

第22回 鷹取での2日間(7)
2007.7.8
▲写真1 杵も臼も餅米も南木曽からの贈り物である

 「たかとり完成パーティー 〜きのう、今日、そして、未来へ〜」の会場の一郭では餅つきがはじまった。南木曽からの餅米を地域の人たちが搗いている(写真1)。野田北部の人たちは、まち(コミュニティ)のめでたい行事やイベントがあるとよく餅をつく。それが地域全体のことであれ、町丁ごとのものであれ、搗く。ときどき、勢いが空回りして尻餅をつくこともある。準備や当日のセッティングの役割がほとんど同一メンバーなので結構たいへんでもある。それでも、餅つきは地域の老若男女が寄り合うよい機会である。威勢の良い掛け声と杵の音の向うのステージでラップの演奏がはじまった。

写真2 MCクリーム・クンベル
▲写真2 MCクリーム・クンベル
写真3 MCクリーム・クンベル
▲写真3 MCクリーム・クンベル

 この日演じられた歌舞音曲(日・越・韓)は、素人ありプロありソロありグループあり、全部で10組出場したが、それぞれにオリジナリティがあってたのしかった。わたしの好みで2組を紹介したい。まずは、ご贔屓のヴェトナム人ラッパー、MCクリーム・クンベル [CREAM CUNGBELL](写真2〜3)。MCナムも登場したが、彼のことは数回書いているので割愛。クリーム・クンベルのうたう『RAPをするだけ』はメッセージ性のつよい、ことばの飛礫(つぶて)のような歌だ。彼は幼児のときに家族といっしょにボートピープルとして日本へやってきたヴェトナム難民1世である。幼児のときにあの海を小舟で渡ってきたのだ! わたしなりのラップ理解でこの歌の感想をいえば、彼は、幼年期から少年時代そして青年へと、在日ヴェトナム人として生き抜いてきた自らの軌跡を、アグレッシヴなことばでオノレの体内から叩きだし、他者としてあった“世界”という坩堝へ向かってそれを撃ちこんだ。わたしはそう聴いた。(クンベルのラップはCD発売されているがこのWebサイトで視聴できる。http://www.myspace.com/creamcungbell)。

PERFECT ILLEGAL

 「ラップは最高の夢をかなえるもの。ラップで世界が開けた」と彼はTV番組のインタヴューで語っていたが、その夢はけっして楽天的なものではない。外国人にけっしてやさしくない日本国(どこにも外国人にやさしい国家などないのだが)で生きることを選択するなら、要領よくこの社会に溶け込んでしまうか、切っ先するどいヤッパを持って自分を主張していくか、あるいは第三の道があるのか。クンベルは、「ことば」、それも日本語を武器に、在日ヴェトナム人としての自分を日本列島社会に投げこんで生きる道を選んだ。ことば(日本語)を武器とする以上、武器であることば(日本語)はつねに磨かれねばならない。『RAPをするだけ』や『月の記憶』、『LoconoizRMX』、『マンゴーの木』などを聴くと、より多くの日本語を自分のことばにしていこうとする意欲と、日本語を自分のことばとして深めていこうとする意識がつよく感じられる。ことばによる“世界”への異議申し立てと愛――その拡張と深化はさらにすすむであろう。自ら坩堝となれ、クンベル。そして、ラップは、クリーム・クンベルにとって存在理由であると同時に生活の夢をかなえる手段でもある、「ラップでおれは家建てる」。

写真4 これぞ「復興の華」
▲写真4 これぞ「復興の華」
写真5 Girls
▲写真5 Girls
写真6 Girls & Boys
▲写真6 Girls & Boys

 さて、この日の出し物の圧巻は「長楽すみれ会」のみなさんの『復興ソング&チャイナメドレー』であった。まずは写真をご覧いただきたい(写真4〜6)。野田北部地区の長楽町に住む善男善女が寄り合ってこの日のために結成した合唱団である。登場するや、衣裳の絢爛さと大胆さに会場はどよめいた。ならんで見物していたかんちゃん(神田裕神父)とわたしは思わず仰け反った。観客の目は点になりステージ前にカメラの放列がしかれた。みんなの集中力が目から耳にうつって歌を聴きはじめたのはヤヤあってからのことである。そのコーラスのすばらしさをここで聴いていただけないのが残念である。(ヴィデオカメラが回っていたが、YouTubeに投稿してくれませんか)。歌声も立ち姿ものびのびと軽やかで華やかで、眼福耳悦のひとときであった。
さて、「鷹取での2日間」の巻はこれにておしまい。ながなが、ご退屈さまでした。

写真7 国連大学(UNハウス)前(中央奥がクンベル)
▲写真7 国連大学(UNハウス)前
(中央奥がクンベル)

 追記。鷹取からかえってしばらくして、クリーム・クンベルからメールがきた。「6月20日、国連大学でRAPをするので聴きにきて」とあり、出かけた。その日は「世界難民の日」で、渋谷区青山の国連大学(UNハウス)前の広場で彼は30分2ステージの演奏をした。炎天下の真っ昼間、それでも聴き入る人はすくなくなかった(写真7)。





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