Homeコラム > Circuit 07 -14
コラム「Circuit 07」青池憲司

第14回「非正規」の時代
2007.5.11

 「それにしても、いまはつくづく『非正規』の時代だね」
自称大久保の探偵、便利屋のヤクモがいう。「いきなり、なんだい」と、わたし。
 ふたりは、きょうも、新大久保駅脇のロッテリア2号店でうすいコーヒーを飲んでいる。昼下がりのこの時間、店のなかは、わたしたちもふくめてアジア系の男女で賑わっている。だれもかれもみんなが、なんとなくわけありげな様子で話をしている――かに、わたしには見える。人は他人の物腰がそんなふうに見えてしまう「ときとところ」があるのかもしれない。この店のこの時間帯がそうだ。他者(ひと)からは、わたしたちこそが胡散臭く見えているだろう。そんな雰囲気のなかに溶け込んで落ち着いてしまう、わたしとヤクモである。

 大久保通りには5月の陽光、店内にはアジアの多声があふれている。いい季節のいい時間だ。明るい表通りから店内へ視線をぐるっと一旋してヤクモがつづける。
「非正規滞在者(オーバーステイ)だろ、非正規労働者(フリーター)だろ、非正規居住者(ホームレス)だろ・・・・金太郎飴じゃないが、日本列島のどこを切っても『非正規』が顔をだす。・・・・まさに非正規社会ニッポンだ」
なるほどね。ヤクモの話には一理がある。「その非正規労働者たちがこのまえ大久保通りでデモンストレーションをしたんだよ」とヤクモがうれしそうにいう。わたしは従前からきまっていた用事があって参加しそびれたが、ヤクモはかれらといっしょに歩いたのだ。「便利屋稼業のおれはフリーターだからね」
(以下、ヤクモの話から)。

 デモンストレーションは、フリーター全般労働組合が呼びかけ、38団体が賛同して、4月30日に行なわれた『自由と生存のメーデー07』(同実行委員会主催)である。参加したのは、フリーター、日雇い派遣労働者、ホームレス、障害者、生活保護の受給者など、不安定な生きかたを強いられているさまざまな立場の人たちである。まず、大久保地域センターで<メーデー宣言集会>があり、そこでは、「わたしたちは自立への孤立を拒み、連帯のなかに自律を求める」などの声があった。そのご、大久保地域センターを出発した400人を超えるデモ隊は、大音響のディスコ・サウンドに乗って大久保通りをJR新大久保駅からJR大久保駅へと進んだ。ヤクモ「いやあ緊張したねえ、なんせ地元だからね、仕事の関係者もいるし、行きつけの呑み屋もあるし、だれか見てるだろうな、ちょっとヤバイかななんて、ひるむ気もちもあったが、自分をさらさなきゃなんにも変らないからね」
さいごのことばには若干の照れがあった。

 デモ隊は小滝橋通りを経てJR線の新宿大ガードへとでた。この大ガードを抜けると、新宿駅と歌舞伎町を両岸とする大河のごとき靖国通りがはじまる。ヤクモ「ここは興奮したね。大ガードをくぐった瞬間は揚げ幕をはねあげて花道へ躍りでた気分だった。サウンドはがんがんだし。それにしても、このデモ行進がよくぞ靖国通りのここ(歌舞伎町)で展開できたね。参加したみんなのアピールやメッセージにもパフォーマンスにもそれぞれがおかれた状況への怒りと切迫感があふれていて、こんなに気合いの入った街頭行動はひさしぶりだった」
デモ隊は、そのご歌舞伎町の靖国通りを左折し花園神社をすぎ、明治通りを進みふたたび大久保通りへともどった。

 大久保から新宿そして大久保へ――現代の坩堝を一巡したプレカリアート(不安定な雇用を強いられる人びと)の連帯街頭行動は終った。「この『自由と生存のメーデー07』は本物のメーデーだったね。来年は、非正規滞在者や外国人移住労働者とも連帯したメーデーを実現したいね。時代はますます非正規者をつくりだしていくだろうし、しかし、その時代を変えていくのも非正規者だ、われらは無力ではないと実感したね」
ヤクモの総括である。

(c)2003-2013 The Group of Recording Noda Northern District. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system