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コラム「Circuit 06」青池憲司

第7回 ヴェトナム戦争の戦後を見る(1)
2006.3.11

 ヴェトナム戦争(抗米戦争)の戦後(1975年以降)のヴェトナム社会を描いたヴェトナム映画(ここではヴェトナムの撮影所でつくられた作品に限定する)を、わたしは何本見ているだろうか。残念ながら、そんなに多くはない。以前に見て印象に残っている作品とさいきんに見た作品をあげると、その1本は、『アパートメント』である。1999年ホーチミン・シティ撮影所制作作品で、監督はヴィエト・リン。もう1本は。ブイ・タク・チュエンの監督した『癒された地』(2005年制作)である。

 『アパートメント』の舞台は、1975年に抗米戦争が終結し、南北が統一されたサイゴン(現ホーチミン・シティ)である。ヴィクトリー・ホテルは北ヴェトナム軍幹部のアパートに転用される。ホテルの門番だったタムは管理人に任命される。アパートにはリーダー格のトゥアンとその家族をはじめ、多くの人びとが入居、新しい生活をはじめる。希望に満ちた出発と大きな家族のような生活。やがて、急激に変化する社会に適応できるものと馴染めないもの、かつての北と南の家族間の対立、家族内の諍いなどが起ってくる。それらを見つめ、ときに相談相手になるタム。月日はながれ、アパートメントに以前のような家族的雰囲気は消え失せ、タムは寂寥と喪失の日々を送るようになる。そんなある日、タムは、トゥアンから、アパートを取り壊し新しいホテルを建てる計画がきまったと知らされる――。映画『アパートメント』で、ヴィエト・リン監督は、市井に生きる庶民(タム)の眼をとおして、ヴェトナム戦争後の都市生活の一端を提示する。戦争の傷跡を抱えながら人生をおくる人びとの癒されない戦後を情感あふれる手法で描いている。

 ブイ・タク・チュエン監督の『癒された地』は、ヴェトナムと日本(NHK)の共同制作作品である。ヴェトナム戦争(抗米戦争)で南ヴェトナム軍の兵士として捕らえられていたタイは、中部のまちにかえってくる。そんなに遠く離れていないふたつのまちにふたりの妻と子どもがいる。重婚である。――抗仏戦争と抗米戦争の期間をはさんで、ふたりの女性とふたつの家庭をつくる(つくらざるをえなかった)という話は、『砂のような人生』(グエン・タイン・ヴァン監督、1999年作品)でも描かれている。1945年に日本の占領からの独立を果たしたのちも、ほぼ30年にわたって戦禍がうちつづいた、それが日常だったヴェトナム社会の一面である。――タイは、2番目の妻をつれて新しい土地に移り住むが、そこは撤去されていない爆弾や地雷がいっぱい埋った米軍基地跡地だった。タイは、スクラップ集めで小金を稼いでいたが、ふたつの家族を養うために禁止されている地雷撤去をはじめる。はじめは金のためだったが、元北ヴェトナム軍兵士でタイと親しんでいたナムが、かれが任務としている地雷撤去に失敗して死んでからは、その爆発の跡地を、金のためではなく、自らの仕事として、すこしずつ開墾していく。やがてそれは、広大な野菜畑として、すなわち、癒された地として、村民のまえに拡がる。実話をもとに映画化されたこの作品の意図をブイ・タク・チュエン監督は、「戦後のヴェトナム人の生命力を描きたかった」と語っている。しばらく、ヴェトナム戦後社会のさまざまな問題を提示するヴェトナム映画を見ていきたい。(この項つづく)


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