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コラム「Circuit 06」青池憲司

第20回 ことしの夏は・・・
2006.7.23

 きょう23日は土用の丑で大暑。猛暑であれば鰻で一杯といきたいところだが、関東の空は優柔不断な正義派よろしく一向にはっきりしない。じゃあ呑まないのかといえば、これに関してのこっちの態度は果敢断行であるから、呑む。庶民は何事にも因果関係を見つけて呑むものだ。庶民の道に外れてはならない。あれれ、こういうときだけ庶民になってしまうの。じゃあ普段のわたしはなんなのだろう。いや、わたしは、もう、わたしが何者であるかなんぞに興味がなくなってしまった。わたしではなく、わたしたちを思う。

 わたし一個は妄想的日々のなかにあるが、世間と世界に眼を転ずれば、九州や西日本各地の豪雨禍(これをかいているいまも刻々被害は増している)、日本列島いたるところでの子殺し親殺し殺禍(きょうこそそんなニュースがないように)、ヨーロッパ各地の熱暑禍、そしてレバノンの戦禍、と自然界も人界も禍々しき日々の坩堝である。わたしは、この夏をどのように越すのか。いや、わたしではなく、わたしたちは。「七月の初め、方図もなく暑い時分の夕方近く」斧で老婆を殺した青年がいる。太陽が眩しくて殺人を犯した異邦人がいる。このそれぞれの夏は、わたしたちの夏である。

 そんな夏の一夜、共住懇主催の「おおくぼ学校」で、バングラデッシュ人青年Tota Miah(トタ・ミア)さんに会った。23歳のとき仕事をもとめて国をでて15年というからいま38歳、その間いちどもバングラデッシュへかえっていない。まず韓国で5年、そのご、日本のほうが金になると聞いて来日。千葉や群馬で働き、非正規滞在者(オーバー・ステイ、不法滞在)となったが、さいきん、在留特別許可を取った。ちなみに、現在、非正規滞在者は約22万人を数える。3年まえ、群馬のプレス工場で、右手中指第一関節から先を切断する事故を起こした。経営者はかれを病院に連れていったが、治療費を負担しようとせず、ましてや労災保険のことなどには口を閉ざし、いきなり解雇されてしまった。これは、Tota Miahさんのような移住労働者が抱える問題の最大にして典型的な例である。安価な労働力としての外国人、使い捨ての労働力としての外国人。その外国人の多くがアジア人である。労働者の基本的権利を剥奪する非人道禍。

 Tota Miahさんは、いまASIAN PEOPLEユS FRIENDSHIP SOCIETY(APFS)の事務局長として活動している。APFSは、1987年に設立された外国人支援団体(NGO)で、「移住労働者の労働相談」「政府や地方自治体など行政への働きかけ」「多文化共生のためのイベント開催」を3本柱として運動している。この日の「おおくぼ学校」は「移住労働者って、どういう人? 外国人労働者を取り巻く環境について考える」がテーマで、メイン・スピーカーの山口智之APFS代表の、「移住労働者の問題はなによりも人権問題として捉えねばならない」ということばが印象にのこった。かれらの闘う夏を、わたしたちの闘う夏にしよう。

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