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コラム「Circuit 06」青池憲司

第14回 SODOMAとHAKUHO
2006.5.30
ソドマーと筆者
▲ソドマーと筆者(05年10月 大阪城公園)

 大相撲夏場所で新大関白鵬(HAKUHO)が優勝した。おめでとう、とソドマー(SODOMA)にメールを送った。ソドマーはモンゴルの首都ウランバートルにあるモンゴル大学の女子学生で、昨年の10月から1年間、日本政府の日本語プロジェクト給費留学生として大阪外国語大学で日本語と古典文学を学んでいる。彼女が来日して最初に手にした古典本は、わたしと大阪難波の本屋へ買いに行った「枕草子」である。昨年の7月にわたしと仲間がモンゴル旅行をしたとき、地方への旅の通訳として一緒したのが、ソドマーとのはじめの出会いであった。

 彼女は遊牧民の出身で、故郷はウランバートルから北北西ほぼ1000q、2昼夜バスを乗り継いだ所にある、と聞いた。モンゴルでは、国の政策で遊牧民のこどもは、兄弟姉妹のうちひとりが大学教育を無料で受けることができる。その制度を利用して、彼女はウランバートルにやってきた。そして、日本語を学びそれをいかして、夏休みに日本人旅行者を案内するアルバイトをしていて、わたした
草の上の昼食(モンゴル国内小旅行の途上で)
▲草の上の昼食(モンゴル国内小旅行の途上で)
Photo:青池憲司
ちとも出会った。そのとき、彼女は、日本の文科省の留学生試験を受け結果待ちだといった。わたしたちは、草原地帯への四泊五日の小旅行で親しくなった彼女に、合格したら連絡を、とEメール・アドレスをわたした。彼女は見事合格し、05年10月に来日し、以後、大阪で会ったり、上京の折には大久保でご飯を食べたり酒を飲んだりしている。

 ソドマーは日本の大相撲に興味があって、ことしの春場所(大阪場所)のときにはモンゴル人留学生仲間と高砂部屋の稽古場を訪ねたそうだ。朝青龍に声をかけられ、ちゃんこをいっしょに食べたとうれしそうにメールを送ってきた。そんなソドマーにつられて、もう15年以上も見ていなかった大相撲のTV中継を今場所はほんの時折だが見た。いまや大横綱の朝青龍はともかくとして、琴欧州、白鵬、把瑠都、稀勢の里らの力士に興味がおよんだ。わけても、白鵬に目がいって、千秋楽の本割り(対把瑠都戦)から優勝決定戦で雅山を破って賜杯を手にするまでの数十分は実況に集中した。

 本割りで勝って東の支度部屋へ引上げる白鵬にTVカメラがついていく。これから決定戦の準備だ。西の支度部屋では対戦相手の雅山がすでに万端整えて出を待っている。両者の一挙手一投足と表情の変化をカメラが克明にとらえる。柔の白鵬、剛の雅山。ふたりはもとより、まわりの付け人や関係者のうごきも見逃せない。緊張がたかまっていく支度部屋を交互にとらえた画面はスリリングであった。それにくらべて千秋楽最後の一番(千代大海・旭鷲山)は消化試合の雰囲気。TVが送りこんでくる現場同時体験の醍醐味がここにはあった。

 白鵬は、その相撲ぶりといい、駘蕩とした立居振舞といい、たのしみな若者力士である。留学期限があと4か月となったソドマーが、「最近は留学期間が終わりそうになったことに気づいて、時間の速さにびっくりしながら勉強を続けてます」とメールにかいてきた。ソドマーもたのしみな若者学徒である。ことしはチンギス・ハーンが創建したモンゴル帝国800周年。がんばれソドマー! 負けるな白鵬!


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