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コラム-わが忘れなば

第23回 NAM
2005.12.17

MCナム
▲MCナム
 前回のコラムの終りに、在日ヴェトナム人2世のラッパー・MCナムのことをかいた。今回もつづける、まずは、ナムのオリジナルRap Music『オレの歌』のことば(詩)をお読みいただきたい。ほんとうは、かれ自身がつくったビートにのせた歌をこそ聴いてもらいたいのだが、いまここではかなわない。詩は、前回にもほんの数行紹介したが、FMわぃわぃの村上桂太郎さんが音源をおくってくれたので、そこからことばをひろった。採録のため、聴き取り不詳の箇所があり、その部分は(―)であらわした。あ、そうだ、さきに、ナムのオリジナルなんてかいたが、ラップはオリジナルなのがあたりまえである。

『オレの歌』

一本の線なんてとっくに切れてるぜ どこの国だってしたくはない戦争 
75年終了の戦後 ヴェトナム難民 オレのいかした戦争の話
小さな船に47人 まわりを見渡せば水平線に(―) 
合図はなしだ あわてて船出す 国と国との領海 見つかれば即、即死
沈没率120パー(%) 時間が経てば人生パー パパとママの船は逃げだした 
その3日後 横に通った黒船 「服を脱いで手を振れ」 止まった大きな貨物船
生きのこった すごくない!
すこし長くなる貨物船の行き先 
マレーシア、シンガポール、インドネシアへいって21日 たどり着いたジャパン 
生きのこった腹のなかに 着いたここは長崎 まずはみんな段取り 
そのあと四国、姫路、神戸 オレは長田で生まれた
じいちゃん、ばあちゃん聞いてくれ 昭和62年 生まれてきた孫は天才の子だぜ
感謝する戦争で生きのこったじいちゃん 感謝する死なずに海を越えたことに
大声をだして出てきたぜ このように さあ、ここからオレの人生のはじまりだ
忘れるな この国で生きのこった男だ 
台湾、朝鮮、中国、コリア、ジャパン、メディアから知るアメリカ 
タイ、ラオス、マレーシアにアジア、みんなメディアから知るアメリカ
オレの名前は、ブ・ハ・ビエット・ニャット・ホアイ・ナム
パパとママとヴェトナムと日本とマイネーム
小学卒業後、オレの名前はショーとかく ヴェトナム人がいやになりきった日本人
日本名にこの顔 だれも分かりゃあしない 
ただ本性がバレるのがいやでいやでたまらない 
(―)ということばに惹かれ こういう日本人ラッパーまねて 
オレもなったラッパー
たまに思った 逃げまわってて落第し 逃げまわっててばかり 
ヴェトナム人を隠し いわれたんだ オレはナムなんだと 
ここからだ 日本に住むヴェトナム人ラッパー
だが日本人になりきりすぎて たいせつな母国語をうしなっちまった 
母国にかえってもオレは日本人だといわれる 
この国で生きるたいへんさも知らないで お金がないから物とってつかまる
国籍ないから強制送還もできず 一生出れず ないもんがないから 
この国にいてもオレに国籍はない どこの国に行ってもオレに国籍はない
オレの血は確実に日本より西のものだ こうなればべつにオレに国籍はいらない
オレはオレのことをオレの歌で証明
これがヴェトナムの難民のオレの歌です

©2005 MC NAM


 いまだ、ことばの切片ではあるが、散乱することばのむこうに、ナムが見いだそうと悪戦苦闘している世界像があることは確実につたわってくる。世界像そのものはまだおぼろである。ここでうたわれているのは、オレはなぜ在日するかであり、在日するオレとは何かである。そこまでうたってきて、ナムはしばしたたらを踏んでいるかにみえる。それは、世界像の断片的なイメージはあるのだが、それを結晶させられないもどかしさだ。結晶させる触媒は何だ? 「オレはオレのことをオレの歌で証明」。このことばは、多くの日本人ヤンガージェネレーションがいちどは陥る“自分さがし”とはちがう。日本人ヤンガージェネレーションにとって、日本語を使ってこの列島に在住することは既定事だが、ナムにとってのそれは、数々の葛藤のうちに選びとらざるをえない未定事なのだ。ナムは、日本(語)とヴェトナム(語)の狭間で、在日するアイデンティティを、自らつくりださなければならない。ナムの居場所はつねにナム自身がつくりださねばならない。そのことをふかく自覚しながら、ナムは世界へのTake Offを開始しつつある。


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